2016/8/14経済・ビジネス
最近GPIFが5兆円損したようだけど、これからの運用はどうなるの?
・GPIFは国民が納付している年金保険料を運用しており、2014年10月には年金財政上の必要性から運用
資産
の配分については債券運用の割合を落とし、株式運用の割合を引き上げた
・2015年度の運用は、国内株式市場の低迷が主な要因となり、約5兆円の損失となった
・今後1~2年間の運用パフォーマンスは、運用
資産
配分を変更しないのであれば、株価下落が要因となりマイナス運用となる可能性が高い
GPIFはどのような組織で、どのような運用を行っているのか
GPIFの正式名称は、年金積立金管理運用独立行政法人と言います。厚生労働省を主管官庁として、政府出資のもと、10年前の2006年4月に設立されました。GPIFが設立された目的は、厚生年金 保険法 と国民年金法に基づいて、国民が政府に納付した年金保険料を、厚生労働省がGPIFに運用委託することにあります。そして、GPIFは年金の積立金を管理および運用し、その収益を国庫に納付することによって厚生年金や国民年金の安定運営に寄与することとされています。わかりやすく言えば、今後、できるだけ年金保険料を引き上げる必要がないように、年金積立金を運用して利益をあげることを目的としています。ちなみに、GPIFの前身となる組織は、年金資金運用基金といいます。2015年度末時点で、運用 資産 額は約135兆円となっており、運用 資産 の内訳は割合でいうと国内債券が約37.5%、外国債券が13.47%、国内株式が21.75%、 外国株式 が22.09%、短期 資産 が5.14%となっています。なお、金額ベースでは、国内債券は約52兆8000億円、外国債券が約18兆9300億円、国内株式が約30兆5800億円、 外国株式 が約31兆円、短期 資産 が約7兆2300億円という内訳となっています。GPIFは、直接自分たちで運用を行っているわけではなく、ほとんどの積立金については 信託銀行 や投資顧問会社に運用を委託しています。ただし、運用についての中期経営計画の策定や運用受託機関の選定は、GPIF自身で実施しています。GPIFの投資スタイルは、2014年10月末に変更されています。2014年10月末までは、 資産 配分は国内債券に約60%、外国債券に約10%、国内外の株式に約24%という比率となっていましたが、それ以降は国内債券の比率を35%に引き下げ、国内外の株式比率を約50%にまで引き上げました。債券運用の比率が低下し、株式運用の比率が増加した理由は、年金財政上の必要性からと云われています。今後の賃金上昇率を平均1.7%上回る必要があるため、極端に利回りが低下している国内債券を中心とした運用では、賃金上昇率を上回る運用を実現することが困難となったためです。
2015年度に発生した損失の原因
GPIFによる2015年度の運用実績は、収益率がマイナス3.81%で、損失額が5兆3098億円となりました。約5兆円の損失に終わった主な要因は、国内株式市場の低迷にあると思われます。国内の株式市場は、2015年7月前後に 日経平均株価 が2万円を超えていましたが、そこが株式市場の天井圏でした。8月下旬にはチャイナショックにより株価が大きく下落し、一時年内に 日経平均株価 が回復傾向を示しましたが、2016年3月末時点では 日経平均株価 は17000円前後で着地しました。また、2014年10月以降に国内株式での運用比率を増やしたことも、損失額の拡大につながりました。
今後のGPIFによる運用スタイルと、運用パフォーマンスについての見通し
GPIFの運用方針は、日本銀行がマイナス 金利 政策をとっており、実際に10年物国債までがマイナス 金利 となっている現状においては、株式運用について比重を置く方針に変更はないと見受けられます。ただし日本銀行が、これまでの 金融政策 についての検証を9月に実施すると明言しており、仮にマイナス 金利 政策の実施を取りやめるのであれば、GPIFが国内債券への 資産 配分を増やす可能性がでてくると予想されます。なお、 資産 配分を変更しないことを前提に、今後1~2年間の運用パフォーマンスについて予想すると、基本的に 円高 トレンド が継続することを理由として、株式運用のパフォーマンスは期待できないと思います。 円高 トレンド が継続する理由のひとつは、中国の 通貨 である 人民元 を安い方向に誘導することでアメリカと中国が合意していると推測されているためです。現在、中国経済はバブル崩壊の目前の状態にあるとIMFが警告を発しており、中国の金融機関が抱える 不良債権 の規模や、中国の民間企業が抱える過剰設備はきわめて過大な水準に達しているとIMFは指摘しています。中国のバブル崩壊を防ぎ、中国経済を軟着陸させるために、中国の輸出金額を高い水準で維持させる必要があり、そのために 人民元 安の方向性を維持することで、アメリカと中国が合意したと報道されたことがありましたし、実際に 人民元 相場 は 人民元 安の トレンド を維持しており、日本の円は 人民元 に対して高くなっています。そして、アメリカの 通貨 政策も、 円安 容認から 円高 ドル安へと誘導する方針へ転換しているようです。為替水準が、2015年に1ドル120円をつけたころから、アメリカの輸出産業の業績が悪化するようになり、2016年に入ってからはアメリカの経済指標は悪化する指標も目立つようになってきており、アメリカ経済の景気拡大が続くか否か不透明な情勢となっています。アメリカの中央銀行にあたるFRBは、金融緩和政策に終止符を打ち、1度利上げを実施しましたが、それ以降2回目の利上げを実行できない状況が続いています。けっしてアメリカ経済も、利上げを実行できるほど好調な状態ではなくなっています。このため、アメリカ大統領選挙の候補者である ヒラリー ・クリントンもトランプもドル安政策を掲げています。2016年になってから開催された、G20やG7の財務大臣・中央銀行総裁会合においては、日本の麻生財務大臣は 円高 トレンド が急激に進行しており、 円高 トレンド を是正する必要があると主張しても、前述したようなアメリカ国内の状況を背景としてアメリカのルー財務長官は聞く耳を持ちませんし、他の主要国の財務大臣も日本に同調しようとしません。こうした国際政治における力学を背景に、2016年8月上旬の時点で、ドル円 相場 は1ドル100円近辺で推移しています。また、EUにおいてはイギリスのEU離脱問題やイタリアやドイツの銀行経営の問題などがあり、急激に ユーロ 安 円高 、ポンド安 円高 が進行しています。とくにイギリス経済が今後半年以内に景気後退に陥る確率は50%との報道もされており、世界経済に暗雲が漂い始めています。このように、2016年に入ってから、あらゆる 通貨 に対して 円高 が進行しており、世界経済の成長率も低下傾向を示しています。為替水準が 円高 へ傾き、1ドル100円の水準ともなれば、日本の輸出産業は打撃を受けます。実際に日本の主要企業における2016年度の第一四半期決算は、減収減益となるケースが続出しています。 円高 要因により日本企業の業績が悪化するということは、 日経平均株価 が下落することを意味しています。2016年7月下旬に、日本銀行がETF購入枠拡大という追加緩和策を打ち出したことにより、2016年8月上旬の 日経平均株価 は16000円台で推移していますが、明らかに為替水準に対して割高となっており、今後の 日経平均株価 の下落が懸念されています。このため、GPIFが運用 資産 の配分を変更しないのであれば、株価の下落が原因で国内株式運用はマイナスとなる可能性が高く、 外国株式 運用については 円高 要因によって損益トントンかマイナス運用となる可能性が高いと思われます。なお、日本銀行がマイナス 金利 政策を取りやめた場合は、GPIFは運用 資産 の配分について、国内株式の比率を下げて、国内債券の比率を高める可能性があると思われます。その場合は、株式運用における損失額は想定よりも減少すると思われます。