2016/8/14経済・ビジネス
KDDIが買収したエナリスって、エンロンと似たような事件を起こしたの?
・KDDIは
エナリス
を事実上買収することによって、au経済圏の拡大をはかっている
・
エナリス
は2014年に数十億円規模の架空取引を行い池田社長は辞任した
・エンロンも
エナリス
も法令に触れる「無理」を重ね、最後は悪事が露見した
KDDIとエナリスによる資本提携の概要と目的
8月10日、KDDIと
エナリス
が資本業務提携をすることを発表しました。この提携は、KDDIが
エナリス
を支配下に置くことを目的としています。創業者一族が保有している約30%の株式を譲り受け、今年の10月に開催を予定している臨時
株主総会
において、KDDIから
代表取締役
と財務担当
取締役
、さらに非常勤
取締役
を送り込む予定としています。
どの企業でも
株主総会
においては、すべての株主が議決権を行使するわけではなく、株主全体の70%程度しか議決権を行使しない事実を踏まえれば、30%の株式を取得するということは、実質的には過半数近い株式を保有することと同じ意味を持ちます。ですからKDDIが
エナリス
を完全支配することを目的としているといっても過言ではありません。そして事業面での目的ですが、KDDIは「auでんき」という名称で電力小売りビジネスにも参入しており、電源を保有している
エナリス
を事実上買収することによって電力小売りビジネスを強化したいのだと思います。また、電力小売りビジネスは自由化されたとはいえ、まだまだ大手電力会社の寡占状態が続いていますから、これからKDDIが多数の顧客を獲得することによって、au経済圏に電力ビジネスの顧客を呼び込む狙いもあると思われます。KDDIは、金融ビジネスとして銀行経営やクレジットカードのビジネスも展開しています。KDDIが展開している金融ビジネスは、低
金利
下においては利ザヤの獲得という大きなメリットが見込めることから、電力小売りビジネスの発展はそのままau経済圏の発展につながっていく可能性が高いと思われます。
2年前に発生したエナリス騒動の概要
エナリス
が売上計上について架空取引を行っているのではないかとインターネット上で話題にのぼったのは2014年秋のことでした。
エナリス
が
有価証券報告書
に、テクノ・ラボという会社を相手に
売掛金
として、10億5000万円という金額を計上していたのです。インターネット上では、ぴったり「10億5000万円」であることに不信感が持たれました。ビジネスの世界で考えると、取引金額がこれほどキリの良い数字であるケースは皆無だからです。そして、テクノ・ラボという会社の本社所在地を調べた人物がいたのですが、なんと茨城県牛久市の雑木林のなかにある単なる資材置き場であったようでした。つまり本社はなかったのです。
エナリス
側は、インターネット上から提起された架空取引疑惑に対して、これを否定するコメントを数回公表しました。しかし、そのコメントでも不信感が拭うことが出来ませんでした。その後、2014年11月には社内に第三者委員会を設置し、不透明な会計処理が存在しないか調査が始まり、不適切な会計処理をしていたことが発覚し2014年12月期決算で約30億円の最終損失を計上しました。この調査結果を受けて池田社長は辞任しました。これが、ぷちエンロン事件と呼ばれた騒動の概要です。
エンロン事件の概要
エナリス 騒動が、ぷちエンロン事件と呼ばれていますが、本家本元のエンロン事件の概要は次のとおりです。エンロンは、アメリカの天然ガス会社2社が合併してできた会社です。エンロンは、インドの発電事業に投資し、さらに発電や売電のほかに、天然ガスやブロードバンドなど卸売市場で取引できるものには何でも手を出して事業を急速に拡大させました。そして、マスコミは電力市場における規制緩和のなかでもっとも活躍している企業としてエンロンをもてはやしました。エンロンはさらなる事業拡大をはかるため大量の社債を発行し、資金を調達していきました。負債も拡大させたのです。エンロンは事業拡大を続けるために、ナイジェリアの発電事業の一部で、メリルリンチとJPモルガンに発電機を売却したあと、リースバックする方式をとるようになります。メリルとモルガンは市場よりも 高値 で発電機を買い取り、エンロンに利益がでるようにし、その分リース料を引き上げました。つまり、エンロン側にとっては、その年は利益がでますが、次の年の利益を犠牲にしていたのです。これを繰り返して、操作して捻出した利益が10億ドルを超えました。この時期、エンロンは多額の負債を オフバランス するため特別目的会社(SPC)に移しました。アメリカの法律では、SPCの株主の3%がエンロン以外の無関係の個人ならば、独立した主体として認められていたのです。しかし、エンロンの株価が下落し始めると、SPCは借金をしてまでエンロンの株価を買い支えようとしました。エンロンの株価が下がるとSPCの価値も下落し、債務超過となってしまうためです。結局は無理がたたってエンロンは破綻しました。これに伴い、エンロンの会計監査を担当していたアーサーアンダーセンは司法妨害の罪で起訴され、経営破綻しました。そして、エンロンの経営陣をはじめ約30名の社員が罪に問われました。多くの罪状は売上の過大申告です。他には、証券詐欺、共謀罪などで起訴され、複数の 取締役 が実刑判決を受けました。さらには、 取締役 たちは株主代表訴訟を提起され、1億6800万ドルを支払うことで和解しました。和解の一環として、リーマンブラザーズやバンク・オブ・アメリカも和解金を支払いました。このエンロン事件は、エンロンだけにとどまらず、会計事務所の業界、投資銀行業界、証券業界を巻き込み、一大スキャンダルとなったのでした。このエンロン事件と2014年の エナリス 騒動の類似点は、電力業界の規制緩和がきっかけという点だと思います。これによって、電力関係の新規参入事業者が急速に台頭し、短期間で業績を拡大し、株式の上場を成功させました。そして、業績拡大というプレッシャーに耐え切れず、架空取引や不適切な会計処理によって企業業績を良く見せようと図ったのだと思います。しかし、法令に触れる形での無理は、必ず露見するということは両社は教えてくれました。