2016/8/27経済・ビジネス
ベーシックインカムは日本で受け入れられるか
・ベーシックインカムとは、低所得層に対して、生活に必要な最低限の所得を保障する政策
・ベーシックインカムを導入することによって貧困の解消が図られるが、勤労意欲の低下や、財源をどこから捻出するかといった問題が発生する懸念がある。
・日本でベーシックインカムを検討する場合、日本国籍を持たない在日外国人や特別永住者が存在するため、彼らをベーシックインカムの対象とするか否かについては大きな論争を引き起こすことになる
ベーシックインカムとは、どのような政策なのか
ベーシックインカムとは、国民の最低限の所得を保障する政策です。具体的には、毎月、すべての低所得層の国民に対して、生活に必要な一定額を給付する制度となっています。この政策の趣旨は、貧困をなくすという理念を基にしており、格差の拡大が顕著になるにつれて、富の再分配という観点から注目を集めている政策です。今年の6月にスイスで、ベーシックインカムの導入に関して国民投票が実施されましたが、スイスで議論されたベーシックインカムの内容は次のとおりです。
①低所得層に対して、最低生活保障として毎月約27万5000円の収入を保障する。子供に対しては大人の4分の1の金額を支給する。
②財源は、年金や失業保険などを廃止して充当する。また、高所得層に対して増税を実施して、増えた税収によって賄う。
6月5日にスイスの国民投票は投開票が実施されましたが、反対多数で否決されました。しかし、他の国でもベーシックインカムの導入の動きが見られます。フィンランドでは、2017年から試験的に2年間ベーシックインカムを導入するようです。また、オランダでは、人口約30万人のユトレヒト市など4つの市が、ベーシックインカムを導入しています。ユトレヒト市では、生活に必要な最低所得金額として1300
ユーロ
を設定し、この範囲内でベーシックインカムを受け取れるようです。
ベーシックインカムのメリットとデメリット
ベーシックインカムのメリットとしては次のとおり挙げることができます。
①貧困の解消
②年金制度や失業保険制度、生活保護制度などが廃止されるため社会保障制度そのものが単純化され、すべての国民にとって社会保障制度を理解しやすくなる。また、行政の効率化につながる。
なお、ベーシックインカムのデメリットとしては次のとおり挙げることができます。
①ベーシックインカムの対象者から勤労意欲がなくなる。
②より大規模な社会保障制度となるため、中央官庁や地方自治体の事務経費が膨らんでしまう。
③年金や失業保険、生活保護を廃止するだけでは財源を捻出できず、高所得層や
資産
家への増税が避けられない。このため、高所得層が海外へ居住地を移転してしまう可能性がある
日本でベーシックインカムの導入を検討する場合、考慮すべき日本固有の事情
日本政府の国債発行残高は、GDPに対して160%程度の水準に達しており、なおかつ基礎的財政収支(
プライマリーバランス
)もマイナスの状態が続いています。現状の日本政府の財政状態で、ベーシックインカムを導入すると、財政がさらに深刻な状態となることが予見されます。そして、ベーシックインカムを導入し、高所得層に対して増税を実施すると決まった場合には、高所得層はシンガポールや香港など外国へ居住地を移してしまう恐れがあります。かつて民主党政権が高所得層を敵視する発言を繰り返したために、日本の高所得層の一部は居住地を外国へ移してしまいました。
また、日本社会においては、日本人の気質として「働かないことは恥ずかしい」とか「国や自治体から生活費を受給することは恥ずかしい」といった「恥の文化」が根強く存在すると思います。このため、現状ではベーシックインカムを日本に導入することについては懐疑的に考えざるをえません。そして、とくに日本独特の問題としては、第二次世界大戦終結まで日本政府は朝鮮半島や台湾を統治していたため、いまでも日本国内には日本国籍を持たない在日外国人や特別永住者が多く存在するという独特の問題があります。彼らには納税義務は存在しますが、ベーシックインカムの支給対象から除外するとなると、国内で大きな論争に発展する可能性があります。