2016/10/7経済・ビジネス
千葉県柏市の公設市場は移転が中止となったようだけど、築地市場と似た経緯なの?
・柏公設市場については施設の老朽化や場内の狭隘化、さらに取扱高減少による市場間競争への対応を検討した結果、施設移転を決断したが、リーマンショックや福島原発事故の発生を契機に、移転を中止し、現在の市場の安全確保と取扱高向上による売上向上を目指すことになった。
・柏公設市場の移転が決定されて以降の地価については、移転予定地区であったエリアの地価が一方的に下落し続けている点が特徴的となっている。市場の移転が、地価の上昇要因ではなかったということを示している。
・柏公設市場は、柏市周辺エリアの住民へ青果物などを円滑に供給するために設立されたローカルな市場であり築地市場の参考になるとは一概には言えない。
なぜ柏公設市場は移転が中止されたのか?
柏市の公設市場は、昭和46年に青果市場としてスタートしました。その後花き市場や水産市場も開場し、総合地方卸売市場として現在に至っています。
しかし、年々施設や設備が老朽化し、市場内の空間も狭隘化が目立つことや、年々取扱高が減少して業者からの市場使用料収入が減少し、近い将来、柏公設市場の維持運営そのものが難しくなってくる見通しであることから、柏市は柏市公設市場の整備に関する審議会を設置し、長期整備について検討しました。
その結果、柏公設市場については全面的に施設を更新し、市場間競争に対応し、流通機能を強化し、市場における取引を活性化させることが必要であるとして、平成17年1月に審議会から柏市に対して柏公設市場を移転させることが有効であると答申が提出され、柏市は市場移転の検討を開始しました。
そして平成18年には常磐自動車道の柏インターチェンジ付近にある大青田地域を移転候補地に選定し、地権者とも合意しました。
ところが、平成20年にリーマンショックが発生し現在の市場の売却見込み価格が下落する見通しであることや、平成23年には東日本大震災と福島原発事故が発生し、放射性物質の流出事故も重なったことから、市場の事業者からは移転整備よりも現在の市場の施設の安全確保と売上向上への早期取り組みを求める意向が強まり、平成23年8月になって、柏市は公設市場の移転を断念することを決定しました。
なお、市場移転中止に伴い、柏市は土地区画整理組合設立準備会に対し、約3億3000万円の損害賠償金を支払うことが裁判で確定しました。
柏公設市場の移転が発表されてから移転中止を経ての地価の推移
平成17年に柏公設市場の移転が発表されて以降、国土交通省が毎年公表している地価公示によると、現在、公設市場が置かれている若紫エリアの地価は、平成16年には1平方メートルあたり10万2000円だった地価が、平成20年には11万2000円まで緩やかに上昇しています。その後一転して、平成25年には96000円まで下落し続けています。なお平成28年は96500円となっています。
一方、移転予定地であった大青田エリアの地価は、平成17年には1平方メートルあたり41900円となっていましたが、それから平成28年には33200円となっており、この間一貫して地価が下落しています。
この地価公示の推移から推測すると、現在、公設市場が置かれている若紫エリアについては、近隣に商業施設や鉄道の駅や大学が集積しているため、地価が安定しているものと推測できます。
ただし、移転予定地区であった大青田エリアの地価は、平成17年以降は一方的に下落し続けています。これは市場が移転してくることが、地価の上昇要因とはならなかったことを示していますし、後継の開発計画が存在しないためにアベノミクス景気となっている現状においても地価の下落に歯止めがかからないものと推測できます。
柏公設市場と築地市場の相違点
柏市の公設市場は、昭和43年9月に千葉県流山市、我孫子市、柏市の3市長と沼南町長が発起人となり、それまで地域にあった7つの青果市場が統合する形で、昭和46年に青果市場がスタートしました。その後、総合地方卸売市場として現在に至っています。そもそもの市場の成り立ちが、地域住民に円滑に果物や野菜や魚などの食材を安定供給するための、地方の卸売市場という位置づけとなっています。
これに対して築地市場は、世界中から水産物や青果物が集積する世界最大の卸売市場で、2013年の取引金額は5000億円に達しています。同じく2013年の年間取扱量は水産物が約48万トン、青果物は約30万トンも扱っており、他に類を見ない巨大な市場規模を誇ります。
このような状況の違いから柏のケースが築地市場移転の参考のケースになるとは必ずしも言えません。
ただ、この巨大な取扱高のため、築地市場が卸売市場として健全に機能し続けていけるか否かという問題は、水産物や青果物の流通市場に大きなインパクトを与えるものと思われます。